総評

大会総評

私の友人から連絡がありました。
大会の夜、興奮して寝られかったそうです。
おかげで寝不足でふらふらとし、帰郷するための飛行機を逃してしまったと言っていました。 別の友人は、大会を盛り上げたあの音楽が頭から離れず、考えると涙がにじんでくる、と言っていました。(笑) まるで一日中映画の中にいたような、ドラマを見たんだ、感動したんだ、と言っていました。


500人入るアリーナはソールドアウトになっていました。そこに座った方たちは、最初は誰かのおつきあいでの人もいたでしょう。しかし、誰一人途中で帰ることができずに食い入るように見てくれました。あのお客様たちの歓声、声援は、予告編の動画を見てもおわかりいただけるかと思います。 みなさんが期待しているであろう本編を作り上げる責任に、身が引き締まる思いです。

繰り返しますが、キッチンカーのお弁当、刀屋さん等のブースへの出入りはあったものの、満席の人の歓声は素直で素敵でした。


あの場の空気感は、そこにいたものにしかわからないでしょうが、本当にドラマチックな一日でした。 Jリーグのパートナーである「明治安田」という大企業が、ゼッケンパートナーになってくださったこと、それをはじめとする多くの企業の応援、居合の世界初の賞金争奪戦、そういうものが選手の「生涯忘れられない」誇りになったことでしょう。 さて、個別に見ていきます。

名誉大会実行委員長 山本亨墨田区長
佐藤あつし墨田区議会議長
安村凰玉師範の四方祓いの儀で清められる。
栗木六鳳師範による両車での試し斬り。
会長 武田鵬玉師範の対短刀制圧。こんな危険な演武はない。無外流の組太刀や形に見るさばき方の哲学を応用して制圧する。この日ジュリアーノ熊代は「中途半端にやると危険だから、思い切って仕留める気できてくれ」と会長から言われていた。
武田双雲一門の師範 蓮水先生による揮毫

≪ リトルジュニア ≫

優勝(大会実行委員長賞) 栗田圭路郎
準優勝 北千 瑠伴

栗田君は今受験でお休みしているお兄ちゃんに鍛えられたようで、とても小学2年生に見えない果敢な攻撃をしていました。

リトルジュニア 小学2年生が優勝。

≪ ジュニア ≫

優勝(墨田区長賞) 浅田京史朗
準優勝 野川為何
第3位 北千瑠伴

これからの居合の普及・次代への継承にジュニアは欠かせません。子どもがいない団体に未来はない、と言いきっても過言ではありません。
山梨から参戦の浅田君が、ジュニアの激戦を制しました。 今後が楽しみです。

≪ ユース ≫

優勝(墨田区長賞) 高木誠雅
準優勝 大谷志貴
第3位 大越妃依

高木君が圧倒的な強さで制しましたが、中学生になったばかりの、かつてのジュニアチャンピオン大谷君の決勝進出はさすがでした。

≪ マスターズ ≫

優勝(明治安田賞) 武田祖侑
準優勝 森井紀明
第3位 阿部信一郎

50歳以上がエントリ―できるのがマスターズ。無双直伝英進流から移籍した、武田選手が常勝森井選手を退けました。今後の激戦が予想できそうです。

≪ 新人戦 ≫

優勝(明治安田賞)  内田龍馬
準優勝 長岡勝
第3位 小泉超

初めて全日本に出場する選手がエントリ―できる新人戦。栃木からの内田選手が、福岡の長岡選手を退け、新しいスター候補の誕生を予感させました。みんな新人だから、技術はまだまだかもしれません。でも、誰も笑いません。天は笑わないからです。
鵬玉会以外の他会から刺客として参戦した福井の小泉選手が3位に入賞。フェアであることがオープントーナメントの基本であることを実証してみせた結果でした。

福井から来た他会の刺客 小泉超選手。君の果敢な闘志を私たちは忘れない。また来年会おう。

≪ 一般女子 ≫

優勝(武田鵬玉賞);副賞10万円 鈴木梨央
準優勝 浅沼澄子
第3位 奥田裕子

今年は出場者が多く、激戦となった一般女子。 優勝候補と言われた埼玉の救命医、昨年のチャンピオンの奥田選手は敗れ、ノーマークだった鈴木選手が優勝。 大会には予想外のことが起きるものです。

≪ 一般男子 ≫

優勝(新名玉宗賞)副賞10万円 鶴澤 和樹
準優勝 箕輪 憲人
第3位 小池 敏之

他会の刺客を含め、46名のエントリーにより、最大激戦区、そして大会のメインとなった一般男子。 どこも激しい試合が行われましたが、今年はドラマを会場の誰もが見ました。

今大会の優勝候補筆頭は箕輪選手だったと私は今でも思います。 私の内弟子二期生であった彼は、すべてをそこに注ぎ込んだ一年を送っていました。
間合を鮮やかに捌きながら一撃で終わらせる。 「これが無外流だ」というような、最短最速の居合。 彼の前では抜刀することさえ難しい。 太刀一つでさえそうですから、ましてや脇差を抜かなければ始まらない二刀流対策は、徹底してしはしましたが、するまでもないほどでした。 そんな組太刀を彼はできるようになりました。

そんな光景を何度も見たら、箕輪君は天才だと人は思うでしょう。 しかし彼は、大会2週間前、私がいないところで右手小指を骨折してしまいました。

話には聞いていた運営側は、当日包帯をとった右手を見て「あんなにひどいことになっているとは思わなかった」と声をあげたほどです。

私は彼に出場を辞退させようとしました。 でも、「この一年、この日のために稽古してきました。どうしても出させてほしい」という彼の言葉を撥ねつけることができませんでした。 指導者失格かもしれないと思います。

しかし、かわいい弟子が人生を賭けて、自分を証明しようとしている。
医者には「なんとか試合には出られるようにしてください」と頼んだそうです。

麻酔医から麻酔をうってもらう箕輪。

そして大会当日、昼の時間に麻酔医が麻酔を打っていたのを見ました。 ギプスを外したその右手には、飛び出しているボルトが見えました。
その上でテーピングをほどこして、彼は戦場に立ったんです。

居合の形の理合を語るときに、「こうすれば必ずこうなる」なんて語る人がいますが、そんなのは机上の空論です。 それが机上の空論だということが薄々わかっている人は、「居合というのは鞘のうちだ。抜かないことに価値がある。」と言います。
そんなのは手垢のついた妄想です。 中学二年生が語る妄想のようなものです。
そんな理想を語っていいのは、斬れば圧倒的な技術で斬れる人、戦えば修めた居合の技術で勝つ人、その二つが同時に成立している人だけです。
そうなったときに初めて道を語っていいんです。

ゼッケンには、ゼッケンパートナーの「明治安田」。
ダイナミックに躍動する。
実戦の舞台にたったものだけが語れる居合の真実がある。

宮本武蔵先生が語る言葉に重みがあるのは、そこに理由があります。 無外流明思派の新名玉宗宗家が言う「斬れない居合はただの踊りだ」には重みがあります。 上記の理由で真理だからです。 「居合は鞘の内である」なんて座って高みに座っているだけの人は、私の内弟子たちの前に立って一分持てば話を聞いてあげてもいい。 黙って試合場に立つ箕輪の戦う姿は、妄想を語る輩の何百倍も美しかった。 その右手を攻撃して、なんとかつぶしてやろうと考えた選手もいたかもしれません。 しかし、そんな武道家としてはいかがなものかな選手は鮮やかに退けられました。

だから、ベスト8が決定したとき、そう、フェイスガードをとってアリーナに8人が現れたときは歓声があがったんだと思います。

ここからは剥き出しの戦士として戦う。

アリーナに登場したベスト8

ジュリアーノ熊代
栗木六鳳
鶴澤和樹
箕輪憲法人
衛藤豊
小池敏之
田中孝史
川尻龍次

観客は、一般男子のベスト8に入るような選手たちは、普通ではないことをその目で見ました。 綺麗にからだをさばき、瞬間の抜刀で勝負を決する。 無外流居合を学んだ人たちなら「霞だ!」「陰中だ!」とわかったでしょう。

小池の大躍進。
これまでの大会で優勝候補の一角とされたジュリアーノ熊代も実力を証明
優勝を奪還しようと駆け上がってきた栗木。
栗木はジュリアーノも退ける。
3位決定戦。かつて歯が立たなかった栗木を退けた小池の大躍進。稽古相手の豊富さで、経験を積んできた。
3年前の大会での決勝戦と同じカード。栗木の優勝奪還が阻まれた瞬間。
決勝戦は、怪我を抱えながらも鮮やかに勝ち上がってきた、間合いを読む天才 箕輪と、変幻自在のさばきで誰も寄せ付けなかった仕事師 鶴澤の激突となった。
居合の戦いでは、簡単に抜刀させてくれない。
通常は目を見ない。自分を仕留めようとする者の目は怖くて動けなくなるからだ。それを乗り越えた決勝の彼ら。
激突。相手の刃筋を読む、鮮やかなフェイント。会場から思わず歓声と悲鳴があがる。

彼ら8人は、等しくその一年、人生を賭けて努力してきた剣士たち。
たった一つの頂点を目指す姿は輝いていました。

それまで鮮やかな一本勝ちで勝ち上がってきた箕輪を忖度なく打ち砕いたのは、同じく内弟子二期生だった鶴澤。
彼と戦ったことがある方ならご存じのように、変幻自在の仕事師。
昨年のチャンピオン川尻を一撃で斬り捨てたときは、物販ブース、真上から見ていたときは嘆息するほど、鮮やかだったと言っていました。
決勝を戦う鶴澤には、「怪我をしているから」という、眼前の敵、箕輪に対する忖度はありませんでした。 仕事師鶴澤は考えたでしょう。 「天才箕輪を打ち砕くのに、手加減なんかしたら失礼になる。 そして、手負であっても、天才箕輪に手加減する余裕はい」

歓声さえ飲み込ませるようなひりついた試合。 一瞬を狙う箕輪、全力で箕輪を狩ろうとする鶴澤。
小池の健闘、ベスト8に入ったジュリアーノと栗木の熱戦、他にも語るべき試合はありますが、あらためて動画の本編にまとめたいと思います。

彼らの健闘は、たとえ何位であろうが輝きを失わない、本当に素晴らしい試合の連続でした。

居合の世界初、賞金争奪戦。頂点に立った、一度も斬り倒されなかった者だけが手にできる。鶴澤和樹が手にした。

明治安田の方たちも感動していらっしゃいました。 部長が私に会いたいとおっしゃっていました。 また、世界で最も権威のある海外の武道雑誌からの問い合わせ、各種メディアからの視察、雑誌の取材と動画撮影。 この居合による、世界の扉を開く瞬間だったと思います。 志を同じにする方はぜひ私たちに問い合わせをください。 変化はすでに始まっています。

2024年7月吉日 

大会会長
国際居合道連盟鵬玉会(無外流) 会長

武田鵬玉

エントリー総数135名。たった一つの頂点を争った仲間たち。
来年また会おう
応援ありがとう。

2025年 第9回大会に向けて

自由組太刀こそ居合である

「武道の根幹は強さである。ならば居合の命は組太刀と試し斬りだ」
それがどれだけ人を感動させるでしょうか。それはこの第8回大会の空気を吸った人ならわかるでしょう。
誰もが思ったでしょう。
本来はこれこそ居合なのです。
余談ですが、無外流の流祖 辻月丹の頃、「今学ぶなら無外流だ」と後援者の酒井雅楽頭(うたのかみ)をはじめ口にしたそうです。その辻月丹の無外流は、「しかし、激しいぞ」と言われ、その証拠に稽古終わりには道場の床にはこぼれた刃がたくさん落ちていたと言います。

これが居合だ

私は「全日本居合道 自由組太刀 選手権大会」という名前が長いと思っていました。
8回分の大会でようやく準備はできたと判断します。
9回からの大会では、「自由組太刀こそ居合だ」というメッセージを込め、夏の自由組太刀の大会を「全日本居合道選手権大会」と大きく打ち出します。

来夏は「第9回全日本居合道選手権大会」として

1月の京都武徳殿では「形」、秋の地方での大会は「試し斬り」という名前を冠し、その二つが居合のある側面だけの大会だとします。
来夏の大会は「第9回 全日本居合道選手権大会」です。

蓮水先生による書

斬 ZAN

この自由組太刀の大会を象徴するキーワードを探していました。
これこそ居合だ、とどの流派にも扉を開き、世界に届けられるキーワードは何か。
今回の第8回大会で公募し、「斬 ZAN」としました。
ZANという読みに、「Zenith Artistry of Nihonto Kenjutsu」という意味を込めました。
日本刀を使う居合の技術の芸術性、技術を極めた、たった一つの頂点を目指す大会です。
頂点は、大会を通じて一度も斬られなかった者。
準優勝であっても、最後は斬られたのです。
この大会は、剣の達人たちが集い、その卓越した技術と精神を競い合う場となります。伝統的な日本の剣術と現代の競技精神を融合させたこの大会は、参加者だけでなく観客にも感動と興奮を提供します。
それはすでに第8回大会の会場にいた誰もが実感しました。

今後あらわれる模倣的な大会も

第9回の物語もすでに始まっています。これだけ盛り上がりを見せれば、模倣した試合もどこかで行われることもあるでしょう。戦後に空手が形試合からフルコンタクト空手が当たり前になったように、居合とはこれだという認識が一般に広がるでしょう。私はそれでいいと思っています。次代に残らないかもしれないすばらしい文化、武道が残る道です。実戦には、かっこいい妄想はいりません。
そういった「模倣的な試合」や「大会」を経て流派、会派の技術を磨き、そして最高の技を持つ剣士となる。その剣士たちが、集う頂点がこの大会です。だから頂点をめざすという意味の「ZAN」なのです。

頂点となる大会が斬 ZAN

アリーナという戦場に一堂に会し、その技と心の強さを競いましょう。
頂点はたった一つ。
「斬 ZAN」は、「実戦の剣」の真髄を追求し続ける者たちにとって、究極の舞台です。